情報セキュリティの敗北史
アンドリュー・スチュワート著・小林啓倫・翻訳[Amazon]。
自分は特段情報セキュリティに造詣があるわけではないので(情報処理安全確保支援士ももってないし)、知らないことが多かった。
形式論
昨今情報セキュリティというともっぱらインターネットを用いた何らかの不正行為を想起するが、 この本はそれよりもずっと前、タイムシェアリングを用いていたワークステーションから端を発する。
当時は形式証明にこだわっていたという話をきいたことがある。つまり数学的な方法論にのっとって、プログラムの安全性を確保するのだ。 プログラミングなんてアセンブリをゴリゴリ書いて手動で機械語に翻訳していた時代だし、今のように可読性の高いコードなんてのは書くことはできなかった。 それゆえヒューマンエラーさえなく、正確なコーディングをしさえすれば、セキュリティは担保できると考えたのかもしれない。
クオンタム
時代は突然下るが、NSAのクオンタムはなんとも恐ろしい話だった。
クオンタムは、インターネット上のネットワークトラフィックを傍受することで、攻撃対象者のウェブブラウザがウェブページを読み込もうとするのを検知する。 するとクオンタムは、そのウェブページのコピーを素早く作成し、そこに悪意のあるコードを挿入して、本物のウェブサーバーが応答する前にターゲットのウェブブラウザに配信する。 そして(中略)コンピュータの制御を奪うのである。
これは原理的に防ぐことはほぼ不可能なのではないかと思われる。攻撃には国家レベルの工数がかかるけど、確かに原理的には環境をなりすませるよな、と思った。
どこでもいいからどこかへ行きたい
pha 著 [Amazon]
社会資本の強さ
幸福の「資本」論
でいうところの、「社会資本」にかなり投資した生き方だと感じた。
周知の通り、氏はルームシェアをインターネットで募集し、それを継続している(現在は違うようだが)。
今でこそルームシェアはそこそこ浸透してきているが、2010年代ではまだまだ珍しかった。 自分も昔友人とルームシェアをしていたが、理解されることは少なく、大家どころか不動産屋に部屋紹介を断られることも多かった。
それをなんとかしてくれる大家、メンバーも途切れることのないネットワークの強さ。 社会資本もここまで投資するとかなり人生に恩恵をもたらしてくれるといえるのでないだろうか。
京都らしさ
全体的に京都の風を感じる文章だった。 理由としては、 pha氏が引用しているヘミングウェイのことばによく表れている。
もし、きみが、幸運にも、青年時代にパリに住んだとすれば、きみが残りの人生をどこで過ごそうとも、それはきみについてまわる。なぜなら、パリは移動祝祭日だからだ
確かに京都にはそういう面がある。自分も学生時代までは京都に住んでいた。
そのへんで何となく文化的なイベントがあって、参加してもいいし遠巻きに眺めてもいい。 別に格式張ったイベントでないことも多い。そのへんで音楽をやっていたり、古本市、あるいはお祭りなど。縁日の文化が根付いているのかもしれない。 もちろん誰でも参加可能だ。一見さんが大嫌いな「いけず」な文化ばかりがインターネットでは流布されるが、存外インクルーシブな街なのかもしれない。
ところで、社会人になって40近くなったいま、京都にもどって当時のような感覚が戻ってくるかというと、そういうわけではないと思う。 せいぜい学生までに許された、モラトリアムの青春なのだ(といいつつ、沈没してしまっている人も多いけど)。
トーフビーツの(難聴)ダイアリー2022
トーフビーツ 著 [HIHATT]
妻が神戸に行った際に買ってきた本。うちは夫婦ともに氏のファンである。ふたりでライブを観に行ったこともある。 もとの難聴日記は全部は読んでないのにこっちを一旦読了。分量も少ないので。
行動の端々に几帳面さがでている一方でちょくちょく仕事の合間に散歩に出かけている様子が印象的だった。 DJなんて刺激的な仕事をしているのに、息抜きはやはり別腹なんだな。