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SIerと新技術

[2018-11-14 Wed]

「このままじゃうちもマズいかもしれないわね」

午後、暇を持て余した高部課長が持ち帰ってきた資料を眺めながらつぶやいた。

昨日AIやIoTの先端技術をテーマにした展示会に行ってきたらしい。 暑さ残るこの時期は、入ってくる案件も多くなく、 我々システム屋はやや暇を持て余している。 こういった時期にはなるべく外部の展示会やカンファレンスに出ろ、 というのは会社全体の方針だ。

今年の展示会には、昔からの企業というよりかは ベンチャー企業で賑わっていたらしい。

「AI、ブロックチェーン、深層学習.. 最近新しい技術で賑わってきたわね」

「そうですか」

私はサーバ上のExcel方眼紙をいじりながらなんとなく受け答えした。 私の生返事を全く気にかけず、高部課長は続ける。

「やっぱりこれからはこういう時代がきてると思うのよ。 私達もシステムの受注だけしてればいいってもんじゃない。 どんどん最新の技術にキャッチアップして、 技術力をもっと磨かないとね。 うかうかしてるとベンチャー企業に仕事とられちゃうよ。」

我々はシステム屋だ。 企業に納品するシステムを作っている。

そのとき、AIやIoTを求められることはまだない。 いや、話題に登ることもあるが、実際に受注には結びついていないのだ。 おそらく客先もこちらも、相応の知識がないため、 現実的な仕様に落とし込めないのだろう。

しかし、ともおもう。

では、今請け負っているWebやデスクトップアプリケーションについて 技術があるかというと、それも疑わしい。

我々にはもはやソフトウェアの設計スキルはない。 テストやコーディングはおろか、設計すらも外注に出している。 内容もほとんどJavaやPHPの案件だ。 今や社内で実際に設計・実装している人間などいないだろう。

同様に実際にAIやIoTの案件が来ても、また外注に任せればいいのだ。 私達に必要なスキルセットはそんなものかもしれない。

そもそも、ベンチャー企業と我々は、同じ土俵には立っていない。 同じ情報技術を生業としているものの、ビジネスモデルは全く違う。 チェーン店と高級レストランのようなものだ。 外食産業というくくりかもしれないが、 誰もチェーン店の味については言及しないだろう。

これから我々の身におこることがあるとすれば、 商材や発注先が変わるだけで、劇的なことは なにもないかもしれない。


そんなことを考えていると後ろから渡部が現れた。

「高部課長、PC持ち出しの承認おねがいします」

「お、どこかいくの?」

「はい、ちょっと客先で説明求められちゃいまして」

高部課長はゴム印の日付を今日に合わし、丁寧に押印した。

「これ、あと部長印必要だけど、今日休みだから、 引き出しから勝手にハンコ出しておしちゃっていいから。」

「わかりました、ありがとうございます。」

私は紙からExcelに「IT化」された帳簿を更新し、 日本のIT産業を思った。